失業保険は、各種手当を支給するだけの制度ではありません。
再就職をすることを目的としていますから、それを果たすために公共職業訓練制度も用意されています。職業訓練を受講するには条件もありますが、果たしてどのようなメリットがあるのか、そして、どういった職業(種類)の訓練あるのか。これら疑問点について解説します。

 

2018/12/21 18:11:21

職業訓練は3種類

雇用保険の職業訓練とは、「公共職業訓練」のことを指します。国や都道府県が主体で行っているので公共職業訓練といいます。これらは次の3つに分類されています。

 

公共職業訓練の種類

職業訓練は3種類あります。

  1. 離職者訓練
  2. 在職者訓練
  3. 学卒者訓練

以下これらの説明です。

 

1、離職者訓練とは、失業保険を受給しながら受けられる職業訓練です。

 

2、在職者訓練は、仕事に就きながらの訓練であり、授業料は有料で訓練期間は2日~5日と短期間な訓練です。

 

3、学卒者訓練は、高等学校卒業者等を対象に訓練期間を1~2年として職業に必要な高度で専門的かつ応用的な技能・知識を習得させる目的のコースです。訓練料金は有料です。

 

このように分類されていますが、失業保険を受給しながら職業訓練を受ける方が多いので、職業訓練=離職者訓練といっても過言ではないかと思います。

 

失業保険を受給できない方の職業訓練

それでは、失業保険を受給できない方は、職業訓練が受講できないのかというと、そのようなことはありません。そこで、ご自分がどのような職業訓練を受講できるのかわかるのが下の体系図です。

 

公共職業訓練の選び方

 

スマートフォンでは見ずらいと思いますので上記表の補足をします。まずは、「求職中(失業中)」または、「在職中」のいずれかを選択します。

 

求職中で仕事に就いていない方は、「訓練を受けて就職したい」と「賃金を得ながら訓練を受けたい」のどちらかを選択します。

 

「訓練を受けて就職したい方」は、3つに分かれます。

 

  1. 雇用保険(失業保険)を受給できる → 離職者訓練
  2. 雇用保険(失業保険)を受給できない → 求職者訓練
  3. 新卒未就職者である → 学卒者訓練

 

自分が3つのうちどれに該当するかは、勤めていた会社で雇用保険の被保険者として加入していたかどうかがポイントになります。

 

雇用保険から失業手当を受給できる方

雇用保険(失業保険)から手当を受給できる方は、こちらのページに詳細を載せていますが、雇用保険の被保険者で、退職の日以前2年間に被保険者期間が通算して12か月以上などの要件を満たしていれば職業訓練を受講できます。

 

会社倒産や解雇などの場合は離職の日以前1年間に、被保険者期間が通算して6か月以上が要件になります。これらの他に受給要件はありますが、該当する場合は、職業訓練(離職者訓練)を受ける資格もでてきます。

 

雇用保険を受給できない方

一方、雇用保険を受給できない方は、求職者支援訓練というやはり国が行う職業訓練が受講できます。

 

こちらは失業手当は受給できませんが、求職者支援制度による手当が対象になります。訓練期間中に要件を満たせば月額10万円と交通費+寄宿手当(新設)が受給できます。こちらもハローワークにて手続きが必要になります。

 

以上のように分類され、それぞれ該当する職業訓練を受講できるようになっています。
なお、在職者訓練や学卒者訓練は、職業能力開発センターで受講申込みを受け付けしています。詳細は、こちらの独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構のWebサイトをご覧ください。

職業訓練(公共職業訓練)とそのメリットとは

以下、離職者訓練を職業訓練と称しています。
以下はハローワークの公的職業訓練の内容です。

 

公共職業訓練のメリット

職業訓練のメリットとして以下のものがあります。

 

  • 短期課程や高年齢者向の受講料は無料です(テキスト代や工具代、作業服、保険料などは実費負担となります)。
  • 訓練期間中でも、失業給付金が受給できます
  • 自己都合で離職した方でも3ヶ月の待機期間がなくなります。通常は会社都合の離職と違い、自己都合の場合は、3ヶ月間待たないと失業手当は給付されません。ですが、職業訓練を受講することにより待機期間が無くなります。
  • 所定給付日数を過ぎても受講期間終了まで「失業手当」がもらえます所定給付日数は何日というように決まっているものですが、訓練終了までもらえるようになります。
  • 失業手当に加えて、さらに受講手当てや通所(交通費)手当がもらえます。
  • 訓練校まで通学は無理な場合は寄宿手当が支給されます。
  • 4週間に1度の失業認定を受ける必要がありません。通常は4週間に1度はハローワークに出向き求職活動の確認を受ける必要がありますが、その必要がなくなります。
  • 科目によっては、資格の受験取得ができる。仕事に従事するのに資格は大事なものです。資格があるかないかで待遇も違ってきます。それらの受験資格の取得も可能になります。

※ 例えば、自己都合で離職した方で被保険者期間が10年未満であれば、失業手当を受け取れる期間は90日です。その方が、すでに30日分受取り、そこから期間3か月(90日)の訓練を受講した場合。

 

この場合は、本来であれば残りは、90日-30日=60日分となりますが、職業訓練を受講することにより90日-60日=30日分がさらに受給できます。

 

簡単にまとめすと、自費を使わずに職業訓練の受講ができ、失業給付が所定給付日数を過ぎても受講期間終了まで受け取れます。さらに、受講手当や通所手当(交通費)、寄宿手当までも受給できるというのが職業訓練のメリットです。

 

職業訓練を受講できる条件とは?

雇用保険(失業保険)を受給できる方で、受講開始日から遡って1年以内に職業訓練等を受講していない方になります。また、適職に就くために必要であると認められ、尚且つ、職業訓練を受けるために必要な能力を有していることが必要とハローワークから「受講指示」を受ける必要があります。

 

雇用保険に加入されていない方は求職者支援制度があります

雇用保険に加入されてされていない、加入できなかった、雇用保険の加入期間が足りずに失業給付を受けられない、自営業を廃業された方などは、国による求職者支援制度による職業訓練が受講できます。

 

以下のいずれかひとつでも該当する方は失業手当や職業訓練受講給付金等が受給できる場合がありますので、確認のためハローワークを通しての申し込みをお薦めいたします。

  • 雇用保険受給資格者※
  • 45歳以上の方
  • 障害のある方[身体障害者手帳・療育手帳(愛の手帳)・精神障害者保健福祉手帳の所持者等を含む]
  • 母子家庭のお母さん等
  • 求職者支援制度による職業訓練受講給付の要件を満たす方※

なお、上記に該当する場合でも手当等が不要の場合は、ハローワークを通さずとも、直接、職業能力開発センターに申込は可能です。

 

※ 雇用保険受給資格者は、失業手当を受給しながら職業訓練が受けられます。
※ 求職者支援制度による職業訓練受講給付の要件を満たす方とは、雇用保険の被保険者であっても、加入期間が不足している方や、失業手当を受給が終わってしまった方、あるいは自営業で雇用保険に加入していなかった方などです。

 

求職者支援制度は、訓練期間中には要件を満たせば月額10万円と交通費、寄宿手当が受給できます。求職者支援制度については、こちらのページをご覧ください

 

職業訓練の実施者はどこ?

職業訓練の主体者は、国(独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構)と各都道府県にある職業能力開発センターですが、各都道府県から民間に委託している訓練もあります。

 

職業訓練の期間はどのくらい?

訓練期間は3カ月~2年です。なお独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が行う訓練期間は1年が最長になります。

 

委託訓練期間の事例

以下は東京都の職業能力開発センターから民間委託された訓練の実施例と訓練期間です。

 

  • 介護福祉士養成科2年制
  • 保育士養成 科2年制
  • 義肢装具科1年制
  • 母子家庭の母等に対する職業訓練3か月
  • 育児離職者向けeラーニング委託訓練3か月

 

訓練を受講するには選考があります

申し込めば誰でもが訓練を受講できるわけではありません。各コースともと定員がありますので、学力検査や筆記試験、面接が行われます。

 

職業訓練の授業料について

国(高齢・障害・求職者雇用支援機構)が行っている職業訓練は無料です。都道府県の授業料は、有料の科目と無料の科目があるところと、科目に関係なく無料の県もあります。どちらも教科書代は自己負担です。また作業服代等の自己負担が一部の科目にあります。

 

職業訓練が行われている場所

職業訓練は、(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構の指定する場所と都道府県により指定する場所があります。

 

支援機構で行われている訓練場所の検索

(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構のついては、こちらから検索すると、どこで訓練が行われているのかがわかります。

 

たとえば、上記から関東で検索してみますと、栃木県や群馬県が主な訓練場所になります。この中には東京は掲載されていません。

 

東京都の職業訓練場所について

東京都においては都立城東職業能力開発センターで訓練が行われています。そのため東京都内で職業訓練を希望の場合は、東京都が行っている「都立職業能力開発センター職業訓練校」か「民間委託の場合はそれぞれの施設」にて職業訓練を受講することになります。

 

東京都の職業訓練(都立職業能力開発センター)についてはこちらです。

大阪府においては「大阪府雇用推進課」が担当しています。

 

東京都の都立職業能力開発センターについての内容

東京都が行っている都立職業能力開発センターは、13地域に訓練校が点在しています。
中央・城北、中央・城北高年齢者校、板橋校、赤羽根校、城南、大田校、城東、江戸川校、足立校、台東分校、多摩、八王子校、府中校、小平市障害者校です。

 

東京都立・城北職業能力開発センターへの入校案内についてはこちらのページをご覧ください。

 

職業訓練校の選考試験について

期間1年・2年の訓練校に入校するには、面接試験の他、国語・数学ともおおむね高等学校卒業程度の学力検査 や国語・数学ともおおむね中学校卒業程度の筆記試験 がおこなわれます。

 

1~6ヶ月の訓練は書類選考と面接で総合的に判断されます。

 

平成27年4月の入校選考学力検査には、次のような問題が出されました。

 

次の(1)~(5)の四字熟語の□に入る適切な漢字を一字を書きなさい。

 

(1) 用意□到
(2) 明□止水
(3) 一念□起
(4) 南蛮渡□
(5) □枯盛衰

 

このような国語問題や他に数学問題があります。詳しくは以下のページをご覧ください。
平成27年4月の学力検査の過去問はこちら
平成27年4月の筆記試験の過去問はこちら

 

 

東京都の民間委託訓練について

上記紹介の都立職業能力開発センターにおいての訓練以外に民間委託で行われている職業訓練があります。民間委託訓練には次のようなコースが用意されています。

 

  • 離職者等再就職訓練(3ヶ月間・6ヶ月間)
  • 離職者等再就職訓練(保育サービス付き)
  • 若年者向け委託訓練
  • 母子家庭の母等に対する職業訓練
  • 育児離職者向けeラーニング委託訓練
  • 女性向け委託訓練(3か月コース)
  • 東京都民間委託訓練(3ヶ月間・6ヶ月間)など

 

たとえば、上記項目の離職者等再就職訓練(平成27年)のうち、情報分野には、iPhoneアプリ開発科、ネットワーク・情報技術者養成科、Webクリエイター養成科、ITアプリケーションマスター科、Javaプログラミング実践科、VBAプログラミング技術者養成科、ITキャリアエキスパート科などの民間委託訓練が行われています。

 

また、福祉分野においては、介護職員初任者研修・介護事務科、介護福祉医療総合科、医療・調剤・介護事務科、医療事務・調剤事務科などがあります。

 

どの分野にしても定員は、20名~30名くらいです。

 

職業訓練の実例

下記の訓練は平成27年に東京都立中央・城北職業能力開発センター主催で行われたものです。受講生は東京都立中央・城北職業能力開発センターの生徒になり訓練機関は委託された民間会社が行います。受講費は無料ですが、教科書代、健康診断料等は本人負担となります。

 

訓練1

6ヶ月訓練
訓練名:iPhoneアプリ開発科
訓練機関:株式会社メガ・テクノロジー
定員:24名

 

訓練2

訓練名:ネットワーク・情報技術者養成科
訓練機関:本郷アカデミー
定員:30名

 

訓練3

訓練名:ネットワークシステム構築科
訓練機関:ヒートウェーブITアカデミー 新宿校
定員:22名

 

授業は、原則として土曜日、日曜日及び祝日を除く毎日でおおむね午前9時から午後5時までとなっています。

 

職業訓練の応募倍率について

科目によって違いますが、東京都の平成27年度12月入校生応募状況(一部抜粋)においては以下のようになっています。

  • 組織&モチベーション・マネジメント科:定員20人のところ応募19人、応募倍率0.95
  • 貿易実務・マーケティング科:定員20人のところ応募57人、応募倍率2.85
  • 国際ビジネスキャリアアップ科:定員20人のところ応募57人、応募倍率2.85
  • サービスマネジメント科:定員20人のところ応募33人、応募倍率1.65
  • Webデザイン&プログラミング実践科:定員28人のところ応募27人、応募倍率0.96
  • 介護職員初任者養成科:定員15人のところ応募6人、応募倍率0.40
  • 簿記3級講座・FP3級講座・秘書・ビジネススキルアップ講座:定員30人のところ応募17人、応募倍率0.57
  • 育児離職者向けeラーニング委託訓練 計:定員30人のところ応募17人、応募倍率0.57

 

職業訓練の申込みについて

郵送での申込みはできないため、受講を希望する本人が住所地を管轄するハローワークに「離職者等再就職訓練受講申込書」と返信用封筒を添えて申し込む必要があります。

 

※必ず写真(縦3.0cm×横2.5cm)が必要になります。

 

以上が、東京都が行っている職業訓練についてお伝えしてきましたが、以下は国が行っている「独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(以下、支援機構といいます)」訓練の解説です。

支援機構の職業訓練とは

支援機構(高齢・障害・求職者雇用支援機構)は、高齢者が仕事に就けるように、障害者の自立の推進のために、求職中の方やその他の労働者の職業能力の開発及び向上のために総合的な支援を行っている組織です。

 

職業訓練の概要

  • 対象者:ハローワークの求職者
  • 費用:無料(テキスト代等は実費負担)
  • 訓練期間:3ヶ月~1年
  • 申込み先:訓練申込者の住所地ハローワーク
  • 募集期間:各訓練により違う
  • 主な訓練コース:ビジネスワーク科、電気設備技術科、機械・CAD技術科、ビル管理技術科、金属加工科、住宅リフォームなど

 

 

訓練地域

訓練を行っている地域は、職業能力開発促進センターの所在するところで、さらに限定された以下の県で行われています。

 

北海道、岩手、山形、福島、栃木、埼玉、富山、山梨、長野、岐阜、兵庫、奈良、鳥取、島根、広島、山口、香川、愛媛、高知、福岡、佐賀、長崎、沖縄となっています。

 

選考

職業訓練を受けるためには、書類選考、面接、筆記試験があり、結果は数日中に本人に通知されます。

職業訓練に関係する各種手当

職業訓練の手当に関係するものは以下の3つが該当します。

 

受講手当

基本手当(失業手当)の支給の対象となる日のうち、公共職業訓練等を受けた日に以下の金額が受給できます。1日あたり500円、ただし20,000円が上限になります。

 

通所手当

通所手当とは、交通費のことです。
訓練を受ける方の住まいから公共職業訓練等を行う施設までの交通機関、自動車等を利用する場合に支給されます。

 

  • 交通機関利用者:42,500円/月(最高)
  • 自動車等利用者:8,010円/月(最高)

 

寄宿手当

寄宿手当とは、自宅から訓練所まで遠くて通えず、家族と別居して寄宿する場合に支給される手当です。対象となる期間は公共職業訓練等を受けている期間のうち、家族と別居して寄宿していた期間です。寄宿手当の月額は10,700円です。

 

詳細はこちらの寄宿手当とはどういう手当なの?をご覧ください。

職業訓練のまとめ

公共職業訓練は、国が行っているものと、各都道府県が行っている訓練があります。

 

国においては(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構が主体となっています。また各都道府県が行なうものの中には民間委託を行っている職業訓練も多数あります。

 

訓練費用においては無料ですが、テキスト代や作業着代は実費負担となります。ただし、各都道府県が行なう普通課程の長期訓練は有料となるものもあります。

 

離職者が公共職業訓練を受けるメリットとしては、訓練が無料で受けられる、自己都合の離職の方でも訓練を受けることにより3ヶ月の待機期間がなくなる、所定給付日数を過ぎても訓練期間終了まで受取ることができる、失業手当に加えて、受講手当や通所手当なども受取ることができる等のメリットがあります。

 

以上、「職業訓練を受講するメリットとは?受講手当、通所手当とはなに?」の記事でした。

 

該当カテゴリー:雇用保険(失業保険)
関連カテゴリー:労災保険健康保険