交通事故と健康保険。自賠責や人身傷害補償との関係についてご存じですか?

交通事故は健康保険が使えないという都市伝説がありますが、それについての解説と自賠責や人身傷害補償保険との関係。その内容について詳しく解説します。

 

交通事故と健康保険

交通事故で負傷した時など、どんな保険に守られているのか、そして、その保険がどのように対応してくれるのかご存知ですか?

 

わたしたちは、一般的には交通事故で負傷した場合に次のようにいくつもの保険にガードされています。

 

  1. 医療保険(国民健康保険・健康保険組合・協会けんぽ・共済組合・後期高齢者医療など)
  2. 労災保険
  3. 相手側の自賠責保険
  4. 相手側の自動車保険
  5. 自分や家族の人身傷害補償保険
  6. 政府保障事業(加害者が自賠責に入っていない場合)
  7. 生命保険
  8. 傷害保険

などにガードされています。
もちろん誰でもがこれら全部の保険に守られているということではありませんが、多くの人はかなりたくさんの保険で守られています。それゆえかえってその分複雑になってしまっています。

 

交通事故について

ところで、相手がいる場合の交通事故において、一筋縄にいかないのが「交通事故の損害賠償請求問題」なのです。

 

なぜ一筋縄にいかないのか・・・。
被害者側は、納得できるまで治療や十分な損害賠償を要求したいと考えます。一方の加害者や相手側保険会社など保険金を支払う側は、なるべく過失割合を減らし支払いを少なくしたいと考えます。

 

そして治療をする病院や診療所は、交通事故治療は保険診療よりも自由診療で治療をするのが正当であるという考えるところもあり、三者三様の考え方や利害関係が出てくるため厄介な問題になりがちです。

 

交通事故は軽い傷害程度ならすんなりと示談成立になる確率は高いですが、見た目は治っていても痛みが継続する場合や後遺障害が残る場合、また過失割合などで、被害者側と加害者側との隔たりもあり、すんなりと示談にならないケースも出てくるという点だけは承知しておいてください。

 

では、まずは、交通事故と健康保険の関係から見ていきましょう。

 

交通事故で健康保険を使う

「交通事故では健康保険は使えない」ということをよく耳にしますが、なんら問題なく健康保険を使用して治療を受けることはできます。

 

ただし病院や整骨院や接骨院などの治療院によっては「使えません」「自由診療で」と受付窓口で言われたり、ホームページにもハッキリと書いてお断りしているところもあります。

 

でもこれは法に違反しているわけではありません。

 

交通事故で健康保険を使う場合は、必ず保険者(国保・協会けんぽ・健康保険組合など)へ届けをなるべく速やかに提出しなくてはいけません。これを第三者行為による届出といいます。
第三者による行為によって傷害を受けたのですから医療保険者は、治療費を加害者側に請求をします。この届出によって相手が特定でき請求することができるのです。

 

ではなぜ、病院によっては「健康保険は使えない」と伝えるのでしょうか?

 

病院・治療院側の理由

病院や診療所で健康保険は使えないという理由について取りあげてみました。主に以下の3つが理由になります。

 

健康保険が使えないという理由1

経営的視点から、自由診療にしている。健康保険での診療報酬は1点につき10円と決まっていますが、自由診療の場合は1点あたり15円や20円というように値段は自由に決められます。

 

ただし、交通事故の治療においては日本医師会・日本損害保険協会・自動車保険料率算定会の三者協議により、「自賠責保険診療費算定基準」が取りかわされたので、保険診療に比べ大幅な報酬設定にはしていません。この取り決めは、平成24年6月1日現在、全国46都道府県で導入され(ただし民間医療機関すべてがこの基準を導入しているわけではありません。)次のような内容になっています。

 

「自動車保険の診療費については、現行労災保険診療費算定基準に準拠し、薬剤等「モノ」についてはその単価を12円とし、その他の技術料についてはこれに20%を加算した額を上限とする」となっています。つまりは、保険治療よりも2割から約4割高ほどで設定されているということです。

 

ここでいう「モノ」というのは、注射や投薬、麻酔の薬剤料、画像診断の薬剤料・フィルム代等になります。その他の技術料においては、初診料や入院基本料、手術料、入院時食事療養費などが技術料になります。

 

ですので、繰り返しになりますが現状では保険診療に比べて2割から約4割高ほどで設定されているということです。

 

健康保険が使えないという理由2

症状が極めて軽い場合は保険治療でも問題ないが、そうでない場合には、保険治療では限界があるいう理由からです。きちんと治してあげたいという心意気でやっている治療院や質の高い治療を提供を心がけている診療所では、おのずと自由診療が選択肢になるという理由からです。

 

使えないという理由3

そもそも健康保険は、加入者から保険料を集めて病気やケガをしたときになるべく負担なく治療が安心して受けられるための相互扶助を基本としているので、交通事故など第三者が負わした傷病は、加害者に負担させるべきものである。そのため、事業所での労働災害には労災保険が、加害者のある交通事故には自賠責保険が設定されているのです。そうであるから自由診療が妥当である。ただし、交通事故で被害者の過失が100%、或いはそれに近い場合や加害者が不詳だったり、支払い能力がない場合には被害者救済のため、厚生労働省は健康保険を使用してもよいと認めているが、こういうケースを拡大解釈してなんでも健康保険を使うということは誤りである。

 

というのが医療機関側の主な理由3つです。

 

「交通事故と健康保険使用問題」は様々なホームページ上で「健康保険が使えない、使わせないところは儲け主義の病院」という内容で書かれているものが多いのですが、中には、儲け主義ということではなく、シッカリと治してあげたいということを重視しているところもありますから、短絡的にそのように考えるのは誤りともいえます。

 

いずれにしても患者側として困るのは、「保険会社からは健康保険を使ってください」と言われても、治療院からは断られるということで板挟みになるということです。

 

この場合は、「第三者行為による傷病届を出したので健康保険でお願いします」と窓口で交渉してみる、それでもだめなら別の病院や治療院に替えるしかありません。

 

では、ここで「健康保険を使うことにこだわる必要があるのかどうか」を考えてみましょう。

健康保険を使わなくても問題ないケース

使わなくても問題ないケースとは。
自分の過失が0で、相手が任意の自動車保険に加入している場合には、問題ありません。

 

過失がなければ、過失相殺(かしつそうさい)といって引かれるものがなく、すべて相手側負担になります。自由診療でもまったく問題ありません。もちろん支払基準がありますから何でもかんでも補償してくれるというものではありません。ただし相手が自賠責保険しか加入していない場合は健康保険を利用してください。

 

過失相殺とは
被害者側にも事故を発生させた原因(過失)がある場合、加害者だけに損害額を負担させることは公平感・納得性に欠けるものということで、被害者の過失に相応する分を減額して支払うというのが過失相殺になります。
例えば加害者の過失が70%程度、被害者の過失が30%程度である場合は、過失割合7:3となります。被害者に生じた損害額が1000万円だとすれば、加害者はこの場合700万円の賠償を行えばいいということになります。

健康保険を使用したほうがいいケース

「人身傷害補償保険に入ってない、もしくは使えない」
「相手側が自賠責保険だけしか入っていない」
「過失割合でもめている」
「自分の過失のほうが大きい」
「治療・入院が長引きそうなとき」

 

という場合には健康保険を使うべきでしょう。
その理由とは、被害者側にも一定のメリットがあるからです。
自賠責保険では、傷害による損害の限度額は120万円と決まっています。だからといって120万円を超えて治療をしていはいけないということではありませんが、金額が高い自由診療だと、ケガの程度によりますが治療費だけでこの金額の大部分になってしまうことがあります。

 

そうなりますと、相手側が自賠責保険だけしか加入していない場合には、他に請求したい休業損害や慰謝料などは自賠責保険から受け取ることができないということになってしまいます。

 

その場合は直接相手に請求するしかありませんが、いくら交渉しても相手がなかなか支払ってくれないとなるとケガで痛い思いをしたうえに、精神的苦痛を受けたのではたまりません。

 

ですから、このよう場合には健康保険を使って治療費の節約をしておけば自賠責保険の有効活用ができるということになります。
※ 自賠責保険は重過失がある70%以上の場合に減額対象になりますが、それ以下では減額対象になりません。

 

自賠責保険の補償は対象となるもので120万円を超えた場合に、任意一括払いならば任意保険の査定になり、過失がある場合は、自賠責部分を含めた損害賠償の元から対象になってきます。しかしながら、その場合において、過失が7割未満であれば120万円を下回る場合においては120万円が支払われます。

 

例えば、過失割合において相手60%で自分が40%という場合において、治療費が40万円・入通院慰謝料52万円・休業損害68万円などの損害認定額合計が160万円だとします。
このケースで賠償額の計算は、過失相殺もありますから、160万円×(1-0.4)=96万円になります。
しかしながら、自賠責保険では被害者の過失が7割以上ある場合でないと減額はされませんから、損害保険料率算出機構の調査で問題がなければ120万円の支払いになります。

人身傷害補償保険に加入していたら

あなたが、人身傷害補償保険に入っていたなら、どうなる?
この場合には、あなたの加入している保険会社の人身傷害補償保険から先にあなたの過失分も含めて契約保険金の範囲内で損害額を全額受け取ることができます。

 

相手保険会社との示談が済んでいなくても関係ありませんし、相手保険会社とやり取りするのは、あなたの保険会社になりますから、あなたは相手と交渉する必要がありません。

 

上記の例で人身傷害補償保険に加入している場合には、160万円全額受け取れることになります。加入していない場合には、120万円になります。

 

つまりは、人身傷害補償保険に加入していなければ自分の過失分を受取ることはできませんが、人身傷害補償保険に加入していれば過失分も含めて受取ることができるということです。

 

保険会社があなたに支払った分は、後から相手自賠責保険の保険会社と相手側が加入している任意の自動車保険会社へ相手過失分を請求するという流れになります。
ということは、人身傷害補償保険に加入している場合には自分の過失分も含めて受取れるから「健康保険を使わなくても問題ないということか?」

 

いいえ。保険会社によっては、「人身傷害補償保険を使用する場合には健康保険を利用してください」とハッキリとうたっているところがありますから、この場合には健康保険を使用することになります。

 

以上になりますが、このように交通事故は色々な保険や業種の違う立場の人が関わるので非常に複雑になり、治療以外精神的にもストレスがたまりますので、交通事故には十分気をつけましょう。

交通事故と健康保険。自賠責や人身傷害補償のまとめ

交通事故でも健康保険が使えないということはありません。ただし第三者行為ということで保険者に届出をしなくてはいけません。特に自分の過失が多い場合や相手が自賠責保険しか加入していない場合、過失割合でもめているときなどは積極的に使うべきです。

 

自分で人身傷害補償保険に加入していてそれが使えるのなら相手との示談交渉も不要ですし、過失割合に関係なく治療にかかった分等は実損填補で受け取れるので一番ベストな選択肢になります。

 

以上、必ず知っておきたい交通事故と健康保険、自賠責や人身傷害補償の関係についての記事でした。

 

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関連カテゴリー:雇用保険(失業保険)労災保険生命保険

 

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