労災保険の遺族(補償)年金の受取る権利のある受給資格者と受給権者。その違いについて解説します。

 

2015/06/18 11:56:18

遺族補償年金の受給資格者と受給権者はなにが違う?

遺族補償年金を受けることができる遺族を遺族補償年金の受給資格者といい、そのうち最先順位者を「受給権者」といいます。
ですから、遺族補償年金は最も先順位の受給権者に支払われますので、受給資格があっても受取れるわけではありません。

 

遺族補償年金・遺族年金の受給資格者についての説明です。
労働者が業務災害で死亡したときに支給されるのが労災保険からの遺族補償年金です。通勤災害で死亡したときは遺族年金という名称を用います。
遺族補償年金等は、受給する資格を有する遺族(=受給資格者)に対して支給されます。

 

遺族(補償)年金を受けることができる遺族(=受給資格者)とは労働者の死亡当時、その収入によって生計を維持していた以下の者です。

 

妻、夫や父母、祖父母、子や孫、兄弟姉妹のうち、妻は受給するための要件がありませんので受取に問題は生じませんが、妻以外の遺族については下記表の要件を満たしていることが必要です。

 

つまりは、夫が死亡した場合に、受給権者である妻は年齢に関係なく遺族(補償)年金を受取ることができますが、共働きのようなケースで妻が業務災害や通勤災害で死亡したときには、夫は55歳以上でないと遺族(補償)年金の受給資格者にはならないということです。他に受給権者がいなければ夫には遺族(補償)一時金が支払われることになります。

 

受給資格者 受給要件
夫や父母、祖父母 55歳以上
子や孫 18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間
兄弟姉妹

18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間又は55歳以上でなければなりません
※対象年齢には該当しなくても、障害等級第5級以上の身体障害若しくはこれと同程度に労働が制限される状態にあれば、受給資格者になります。

受給権者について

受給資格がある者のうち、以下の最先順位者が受給権者となります。
つまりは、受給資格がある者全員が受け取れるわけではありません。

 

受給権者の順位は、

 

1位 配偶者 2位 子 3位 父母 4位 孫 5位 祖父母 6位 兄弟姉妹
という順位になっています。

 

具体的には、下表になります。

 

受給権順位 受給権者
1位 妻(年齢要件はない)・60歳以上又は一定障害の夫
2位 18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にある子又は一定障害の子
3位 60歳以上又は一定障害の父母
4位 18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にある孫又は一定障害の孫
5位 60歳以上又は一定障害の祖父母
6位 18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にある兄弟姉妹、若しくは60歳以上の兄弟姉妹又は一定障害の兄弟姉妹
7位 55歳以上60歳末満の夫
8位 55歳以上60歳末満の父母
9位 55歳以上60歳末満の祖父母
10位 55歳以上60歳末満の兄弟柿妹
  • 最先順位者が2人以上あるときは、その全員がそれぞれ受給権者となります。
  • 一定の障害とは、障害等級第5級以上の身体障害をいいます。
  • 配偶者の場合、婚姻の届出をしていなくても、事実上婚姻関係と同様の事情にあった方も含まれます。また、労働者の死亡の当時、 胎児であった子は、生まれたときから受給権者となります。
  • 最先順位者が死亡や再婚などで受給権を失うと、その次の順位の方が受給権者となります(これを「転給」といいます。下記の説明を参照ください)。
  • 7位~10位の55歳以上60歳未満の夫・父母・祖父母・兄弟姉妹は、受給権者となっても、60歳になるまでは年金の支給は停止されます(これを「若年停止」といいます。)。

 

 

転給について

転給とは、遺族年金の受給権者が死亡などで失権した場合に、次順位の遺族に受給権が移動する制度です。
転給制度は、共済年金や労災保険の遺族補償年金又は遺族年金の制度です。
遺族基礎年金や遺族厚生年金には、転給という制度はありません。そのため、遺族基礎年金や遺族厚生年金では、受給権者が死亡等して受給権を失った場合には、そこで消滅となります。

 

次に他の年金との併給についての説明です。

 

労災保険の遺族補償年金と遺族厚生年金との併給はどうなるの?

この場合は、遺族厚生年金及び遺族基礎年金は満額支給されますが、労災保険の遺族補償年金または遺族年金は調整され、0.80という調整率をかけて支払われます。両方から満額を受取ると働いていたときの収入よりも高額になってしまうために調整されています。詳細は以下の表をご覧ください。

 

各種年金と併給する年金給付の種類

障害補償年金

障害年金

遺族補償年金

遺族年金

該当する社会保険の種類 併給する年金給付
1、厚生年金及び国民年金 ①障害厚生年金及び障害基礎年金 0.73
②遺族厚生年金及び遺族基礎年金 0.80
2、厚生年金 ③障害厚生年金 0.83
④遺族厚生年金 0.84
3、国民年金 ⑤障害基礎年金 0.88
⑥遺族基礎年金 0.88

 

上の表のみかた

 

  • 1の厚生年金及び国民年金に加入していた方が障害になり①の障害厚生年金及び障害基礎年金を受取る場合は、労災保険からの障害補償年金または障害年金は0.73を掛けた年金額が支給されます。
  • 1の厚生年金及び国民年金に加入していた方が亡くなった場合で②の遺族厚生年金及び遺族基礎年金を受取る場合は、労災保険から支給される遺族補償年金または遺族年金は0.80を掛けた年金額が支給されます。
  • ④の遺族厚生年金だけを受給するケースというのは、子どもが18歳を過ぎている場合は遺族基礎年金が支給されないため、遺族厚生年金だけになります。この場合は労災保険からの遺族補償年金または遺族年金は0.84を掛けた年金額が支給されます。
  • 国民年金を掛けていた方が亡くなった場合で、労災保険から遺族補償年金または遺族年金を受取る場合には0.88を掛けた年金額が支給されます。
  • 障害厚生年金を受け取っている人が労災保険から遺族補償年金を受け取る場合には、調整は行われません。ですので満額受給できます。

 

この措置は、厚生年金保険料は事業主と被保険者で折半して支払いますが、「労災保険については事業主が全額負担しているため二重負担問題が生じてしまうため」というのが厚生労働省の見解です。受取る側としてはなぜ調整されてしまうのかと疑問に思う点ではありますが、労災保険保険料を負担していないのでは致し方ないところではあります。

まとめ

労災保険の遺族年金を受けることができる遺族を遺族補償年金の受給資格者といいます。
そのうち最先順位者を「受給権者」といいます。
ですから、遺族補償年金は最も先順位の受給権者に支払われますので、受給資格があっても受取れるわけではありません。

 

受給資格者とは労働者の死亡当時、その収入によって生計を維持していた妻、夫や父母、祖父母、子や孫、兄弟姉妹になります。
そのうち妻は、受給するための要件がありませんので受取に問題は生じませんが、妻以外の遺族については年齢等の要件がありますのでそれを満たしていることが必要です。
以上、「労災保険の遺族年金の受給資格者と受給権者はどう違う?」の解説でした。

 

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